2013年3月14日木曜日

誰が葡萄の種を蒔いたのか

Team,

 シドニーから車で走る事およそ2時間半。世界的にも有名なHunter Valleyというワイナリーが広がっている。シドニーはとっても大都会だけれど、車で少し離れればまったく違う光景が広がることは北海道に似ているかもしれない。

 3月、この季節は南半球では夏である。先月はメルボルンで40℃という信じられない気温もあったそうだが、ここシドニーでも例えば昨日は29℃まで上がった。南半球に降り注ぐ陽光はUV値が高いそうだ。みんな皮膚がんを心配しているのも無理はない。

 ハンターヴァレーへ向かうコーチ、さながら多国籍チームだった。フランス人、アメリカ人、カナダ人、シンガポール人、韓国人、地元シドニーのご夫婦もいた。そしてたったひとりの日本人である僕。生で聴いてみると、クイーンズイングリッシュの豪州(しかもシドニーのそれは洗練されているだろうが)と、カナダ英語、そして米語で同じEnglishなのに全然、アクセントとか違っているし、僕にもどこどこ訛りの言葉に聴こえてくるから不思議だ。とすれば、僕も英語など、相当あやしいものに違いない。でも、言葉はスキルじゃない、伝えようとすることだ。だいたいのことは分かるけれども、テーブルに座って、みんなでおしゃべりしだすと「会話」に割り込めない。聞かれれば、答えられるという程度。それにしても、ユーモアやジョークが飛び出して、本当に文化の違いを感じる。

 このツアーは本来であれば、日本人の専用ガイドがついた日本人だけの集団になるのだろうけれど、言葉が通じるとか通じないとかは別にして、やはり多国籍の方が心地良い。ちがっているから、みんないいのだ。金子みすゞは、きっとこのことを言いたかったのだと昨日、急に腑に落ちた。

 ワイナリーと一口に言っても、海外に輸出している僕でも知っている有名なワインメーカーもあれば、1800年代から家族経営を続けているところもある。最初に行ったのは、豪州からのワイン輸出量ではナンバーワンのLindemanというワインメーカーだった。
ここでシャンパンも含めた5種類のワインをテイスティングさせて頂いた。スタッフの説明はとても丁寧で、親切だったのは、きっと多国籍軍だったからだと僕は密かに思ってしまった。さて、味わいの方だが、普段イタリアワインを愛するものとしては、今ひとつピンと来るものがなかった。大きいメーカーが必ずしもいいというのは日本でも同じ。

 二つ目に伺ったのは、ガイドブックでも出ている国際ワインコンテストで何度も優勝したことのあるマッッギャン。当主の妻だというカイリーという僕ぐらいの年のよくしゃべる方が案内役だった。「カイリー・ミノーグ、のカイリーよ。でもあっちのカイリーは私より年上だけれどね」とユーモアのセンスも抜群。なんと8種類もテイスティングさせて頂いたのだが、一番お薦めで、僕も楽しみにしていたのは2010 Personal Reserved Shiraz。フランスのコート・ド・ローヌのSyrah種が、オーストラリア固有の気候にあったらしくオーストラリアワインを代表する赤となったのが、このShirazだのだそうだ。たしかに、甘さ、酸味、タンニンともいずれもパワフルでスパイシーなじゃじゃ馬タイプ。香りも素晴しい。だけれども、僕的にはCellar Select Noon Harvest Merlotが一番美味しかった。ヴィンテージは2011年。葡萄酒もメルローと違うけれども、糖度がとても心地よい。食中であれば、こちらだろう。そうだ、Shirazはきっとチーズにぴったりなのではないだろうか?とても、とても個性的で大人の品格を感じさせてくれた。










 知り合いのソムリエールはいつもこういっている。「フランスワインには歴史があり、イタリアワインには物語がある」。至極名言だと思う。少し前まで都市国家の集まりだったイタリアの地域性や個性、さらには歴史に根ざした奥深さを僕はのみたい。しかもローマ帝国だったイタリアのワインに勝つのは中々に難しい。原住民族のアボリジニを別とすれば、少数のイギリス軍兵が数百人の囚人を連れて上陸したところから歴史が始まっている国なのだから、歴史や物語を求めても良くないのかも知れない。

 でも、誰かが葡萄の種を撒いたのだった。少し前まではカリフォルニアワインなんてと言われていたのが、オーパスワンを生み出し、クラレットは世界中で愛されている。チリワインなんかもそうだ。家族の誇りをもって経営しているマッギャン家のような人たちが、きっと世界を驚かす日がやってくるのだろう。ニュージーランドのワインも最近めきめきと力をつけたそうだ。

 みんなちがって、それでいい。

 そんなワインのような社会を僕たちは目指さなければならないのかも知れない。

 

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